先日、将棋を知らない人には全く知られていないニュースが将棋界では話題になった。
それは、加藤一二三(かとうひふみ)九段(67歳)が通産千敗(千二百六十二勝)を達成したというニュース。
これは将棋界史上最多敗戦数であり、間違いなく偉業である。
なぜなら、敗戦数の多さは闘い続けているからこその勲章であるから。
彼は現在B級2組(A,B1,B2,C1,C2,フリーの6クラス)のバリバリの現役棋士であり、順位戦でも若手相手に現在3勝2敗と勝ち越している。
最多対局数も更新中である彼は、将棋界史上初の中学生棋士(以後は谷川浩司、羽生善治、渡辺明の計4人のみ)でもあり、かつて「神武以来の天才(日本国開闢以来の天才という意味)」と呼ばれた。
彼の凄さはその早熟な天才ぶりだけでなく、今尚将棋への情熱を失わずに闘い続けていることである。
彼はまた奇行・奇癖の持ち主としても有名で、数々ある伝説の中でひとつ挙げると、名人戦で彼が初めて(そして唯一)名人位を獲得した対局で、相手の王に詰みがあるのを発見した時、対局中にもかかわらず「ヒョー!」と叫んだらしい。
いくらなんでもそれは嘘っぽいと僕は思っていたが、僕は今日彼が「ヒャー!」と叫ぶのを聞いた。
今日放送されたNHK杯将棋トーナメントの羽生善治二冠(王将・王座)対中川大輔七段の解説を加藤一二三九段がされていた。
終盤、素人の僕から見ても圧倒的大差で中川七段が優勢だった。ところが、後はどう決めるかだけという局面になって、いわゆる<羽生マジック>が炸裂した。
羽生二冠が妖しい手を繰り出して粘り続けた結果、何通りか勝ち手順がある中で、やってはいけない手を中川七段が指してしまい、いわゆる<頓死(とんし)>を食らってしまったのだ。
大逆転劇である。
途中で逆転したことに気付いた加藤一二三九段は「ヒャー!これはNHK杯史上最大の逆転劇じゃないですか!?」と叫んだのだ。
67歳のおっさんが「ヒャー!」と叫ぶのを僕は初めて見た。
しかも、他人の将棋を見て興奮して発したのである。
この人はどれだけ将棋を愛しているのだろうと思うと、僕は彼がとても愛しく思えた(元々僕は彼のファンである)。
生きている限り棋士として闘い続けていてほしい人である。
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